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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)335号 判決

控訴人

干炳寰

王久雄

金大信

魏國雄

馮健疇

翁信福

林泰秀

趙春江

右八名訴訟代理人弁護士

前川信夫

被控訴人

台湾(本訴提起時中華民国)

右代表者財務部国有財産局長

謝實生

右訴訟代理人弁護士

張有忠

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  補正

1  原判決三枚目表三行目の「請求原因一、三」を「請求原因1、3」と、同四行目の「請求原因二」を「請求原因2」と改め、同八行目の「「光華寮」」の次に「(以下「光華寮」は右主張の権利能力なき社団を指す)」を、「本件建物が」の前に「昭和二五年五月末日頃、」を加え、同九行目の「受けた」から同一〇行目の「頃」までを「受けて、本件建物は、右報告のような事情により、本来中国人民及び昭和二四年一〇月一日に成立した中華人民共和国政府の所有であるべきであるが、中国人民はもとより中華人民共和国政府も日本と国交がなく、現実に本件建物の所有権を主張しうる状況にはないので、寮生らは中国人民の一員であるから、寮生らによつて構成される「光華寮」が所有権を取得したと信じて、その頃」と、同末行の「と管理占有し」を「に管理占有を開始し、占有の始め」とそれぞれ改め、同裏三行目の「中国」の前に「仮に1が認められないとしても、」を、同六行目の「声明」の次に「(以下「共同声明」という)」を、同一〇行目の「原告」の前に「仮に1及び2が認められないとしても、」をそれぞれ加える。

2  原判決四枚目表四行目の「自治組織」を「「光華寮」」と改め、同九行目の「社団」の次に「である「光華寮」」を加える。

二  当審主張

1  控訴人ら

(一) 本件に関する差戻前一審の安藤鑑定人、差戻前二審の山本鑑定人、乙第一二号証(藤田久一意見書)は、それぞれその判断基準をいささか異にしながら、それらを通じて共通しているのは、諸般の基準を総合判断して、最終的には承認国政府が個別的に判断すべき裁量的問題であるということであり、したがつて、行政権が裁量の枠を逸脱した場合にのみ司法判断の対象となるのであつて、本件のごとく行政権の裁量的判断をまつことなく司法判断が先行することは、行政の領域に対する司法の介入として問題の余地がある。

(二) 中華人民共和国による権利主張について

(1) 中華人民共和国政府は、日中国交回復後の昭和四九年五月七日以降現在まで十数回にわたり日本政府に対し一貫して本件建物の所有権を主張してその名義変更を要求し、現在も日本政府との間に外交交渉が進行中である(乙第二六、第二七号証)。

(2) 中華人民共和国政府は、当初から中華人民共和国の人民の一員たる控訴人らが祖国のために本件建物を占有管理することによつて、間接的にこれを支配してきたが、ことに国交回復後は、日本政府との協定に基づき、大量の留学生を日本に派遣し(乙第一一号証の一ないし五)、そのうち本件建物に昭和五六年以降現在までに六四名を入寮させ、建物改修工事を施工するなど(乙第二八号証)、本件建物を現実に管理し支配している。

(三) 被控訴人の本件建物買受資金について

控訴人らは、被控訴人による本件建物買受資金に、中日戦争中日本軍部が中国大陸において中国人民から掠奪し、戦後間もなく接収された物資の売却保管金(乙第一三号証の一ないし六)が充てられ、被控訴人本来の財源から支出されたものではないことを原審より主張してきたが、右事実は以下の事実から明らかである。

昭和二三、四年頃、右掠奪物資が次々と発見されて換金され、そのうち被控訴人駐日代表団(以下「駐日代表団」という)が保管していた一四万五〇〇〇ドル(当時の貨幣価値にして約五五〇〇万円という半ば天文学的な巨額である)が留学生らの救済に充てられることになつた事実は乙第一三号証の一ないし七の一連の機関紙記事によつても明白であるが、しかも、光華寮が買収された昭和二五年五月当時、被控訴人の与党である国民党は追われて中国大陸各地を転々としていた時期であり、このように崩壊して浮き草の如く逃げ回つていた旧政府の残党が当時としては二五〇万円という大金(現在の価値に換算すれば二五億円に相当する)を自分の懐中から学生寮のために支出できたという客観的状況は皆無なのであつて、右事情から判断すれば、右留学生救済金の中から買収資金が支出されたと見る以外にはありえない。

そうすると、右掠奪の被害者は中国大陸における中国人民であり、このような物資の売却代金を被控訴人が中日国交正常化の時点までそのまま保管していたとすれば、被控訴人は右保管金を領得することができず、右時点で中国人民を合法的に代表する中華人民共和国政府に移管されるべき性質の資産であつたことは明白である。日中共同声明前文には「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国人民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」とうたわれているが、右掠奪こそは右に言う「重大な損害」の最たるものであり、日本国がそれにつき「責任を痛感し、深く反省する」以上、掠奪したものは最終的に人民を代表する中華人民共和国政府に返還されるようにするのが当然の責務であるところ、本件においては、右返還されるべき保管金の一部が、たまたま中華人民共和国政府成立以後の時点で本件建物に替わつたというにすぎないのであり、中華人民共和国が承継すべきものである点では右保管金と同様である。

(四) 本件建物は中国人学生寮としての用途に供する行政目的を達成するために買収されたものである。留学生の派遣がいかに重要な国家的行事であるかは日本における明治維新以後の例を振り返れば明白であり、まして国を挙げての近代化促進の基本的国策の下に、多額の国家予算を支出して日本を初めとする諸外国に留学生を派遣し、先進的科学技術の吸収に取り組んでいる中国にとつては尚更のことである。したがつて、この一国の柱石となるべき人材養成の用に供せられる留学生宿舎は、国家の追求する重要課題のための重要な行政財産であり、国家でなければ設営できない性質のものであり、国家にとつての重要性は領事館や文化センターなどに比しても決して劣るものではなく、その設営は国家権力の発動以外の何物でもなく、現在国家として留学生を派遣し、日本政府が受け入れうるのは中華人民共和国をおいてはありえないことに鑑みると、本件建物は中華人民共和国に承継帰属すべきものである。

2  被控訴人

(一) 日中共同声明において「台湾が中華人民共和国の領土の一部である」との中華人民共和国政府の主張を日本政府は理解し尊重すると述べているが、日本政府は右主張を承認する義務を負うているのではない。したがつて、台湾地域に中華民国を名乗る政権が存在することを日本政府は否定する義務を有しない。台湾に事実上存在する政府は、日本政府との関係において「承認されていない事実上の政権」である。

アメリカは、台湾関係法(甲第二二号証)により、被控訴人と外交関係が断絶した昭和五三年一二月三一日以前に被控訴人が所有したものはもちろんそれ以後に取得した財産の所有権はすべて被控訴人に属すると明文で規定している。これによりアメリカ国内及びその属領に所在する被控訴人所有財産のすべてはその性格の如何を問わず、中華人民共和国によつて承継されない。右台湾関係法の存在及び現実の取り扱い状況から言えば、アメリカ合衆国は被控訴人と実質上の外交関係があると見てよい。さらに、被控訴人と正式に外交関係を維持している国家は、韓国を始めとして二十数か国ある。このように、台湾に事実上の政権が存在し、それを「中華民国政府」と自他ともに呼称していることは明らかであり、日本との関係においても、日本政府が承認しなくても、貿易、経済、航空を始めとする文化交流、人的往来は年と共に増大の一途を辿つている。

(二) 新政府中華人民共和国と旧政府中華民国との間の政府承継は不完全承継である。かかる場合、承継国の管轄下に所在しない旧政府の財産の所有権者は変更しない。新政府が所有権の権利主張をできる財産は、①外交財産や国家権力行使のために存在する財産で、新政府が自ら占有しているもの、又は正当な権原に基づいて占有しているもの及び、②旧政府から新政府に特に譲渡されたものに限られる。

本件は右①及び②のいずれにも該当しないので、仮に中華人民共和国が何らかの形で日本政府に対して権利主張をしたことがあるとしても、右は理由のない主張である。

(三) 旧日本軍の中国人民からの掠奪物資の売却代金を被控訴人が保管して、本件建物の買受資金に充てた旨の控訴人らの主張は否認する。

(四) 国費で留学生を派遣する行為は、被控訴人を含む多くの国家が盛んに行つており、中華人民共和国に限つたことではない。中華人民共和国が近年盛んに日本へ国費留学生を派遣していることと、本件建物の所有権帰属とは何ら関係がない。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一当裁判所も、被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目裏六行目の「この間に」の次に「昭和二七年四月二八日」を加え、「原告と」の次に「日本と」を加える。

2  原判決六枚目裏六行目の「と管理占有」を「に管理占有を開始」と改める。

3  原判決七枚目表二行目冒頭の「を」の次に「光華寮の名の下に」を、同三行目の「終了したこと、」の次に「国による光華寮管理は、実際には京都大学が派遣する寮監、学生主事らによる管理体制下にあり、同大学の指導の下に幹事会ができ、寮生大会により幹事を互選して、寮内部の問題に関して自治を行つていたが、終戦後しばらくして京都大学が右管理から手を引いたこと、」を、同四行目末尾に「自分らの生活を守るため、寮生大会を開いて、」を、同六行目の「通じて、」の次に「寮を自主的に運営していくこととし、」をそれぞれ加え、同行の「の寮費の徴収」を「寮費を徴収して」と、同裏三行目の「入居者」を「寮生」と、同行の「昭和」から同四行目の「迄は」までを「終戦後まもなく」と、同五行目の「これに」を「かつ、同経営者藤居庄次郎が、本件建物に関して賃貸借の継続に異議を唱えている事情を知り、同人を訪問して、本件建物の賃料を寮生らが払いたいと交渉したが、同人は、政府及び大学当局がこの問題を解決すべきであるとして、右申し入れに応じなかつたこと、寮生らは、駐日代表団に対して、寮生らが安心して寮生活を続けられるように善処方を交渉しつつ、本件建物に」と、同六行目の「入居者」を「寮生」と、同行の「右の」を「昭和二五年五月」と、同七行目の「これらが」から同八行目の「団体」までを「寮生らは、右買取により本件建物における寮生活を安心して継続できると安堵したものの、被控訴人が一向に寮の運営管理を開始しなかつたうえ、寮生らには寮を自主的に管理運営していく気運が高かつたので、幹事会による管理運営を継続したこと、寮生らが当初制定した寮規にもその後の昭和四二年の改正を経た寮規にも、寮の運営に関する事項が規定されているが、本件建物の所有者であることを前提とする、あるいは所有者として行動する場合の意思決定に必要な規則は一切規定されなかつたこと、以上の事実が認められ、右事実に前記二2認定の事実を総合すると、寮生らは、被控訴人による本件建物の買取後も、本件建物が寮生らや寮生らが構成する「光華寮」」とそれぞれ改め、同九行目の「中国」の前に「本来ならば」を加え、同一〇行目の「すぎず」から末行までを「すぎないと認められ、寮生らが被控訴人による本件建物の買取を知つた後に、「光華寮」による本件建物の占有が自主占有に変わつたことを認めるに足る証拠は存在せず、「光華寮」もしくは寮生らによる本件建物の占有が当時所有の意思に基づいて行われた事実を認めることはできない。」と改める。

4  原判決八枚目表一行目の「本件」から同一〇行目までを「なお、控訴人らは、抗弁1記載のとおり、「光華寮」が本件建物を自己所有であると信じ、かつ信じたことにつき過失がないと主張するが、「光華寮」すなわち寮生らや幹事会が、旧日本軍の中国における掠奪物資の処分代金を資金として買い取られたのであるから、本件建物は本来中国人民もしくは中華人民共和国政府の所有であるべきであると信じたとしたとしても、「光華寮」もしくは寮生ら及び幹事会が法律的に中国人民もしくは中華人民共和国政府と同一の人格を有し、あるいは「光華寮」もしくは寮生ら及び幹事会が中華人民共和国政府を代表ないし代理しうる資格を有していたとは到底言えないことは明らかであるから、このことから直ちに、同人らにおいて、本件建物が「光華寮」の所有になつたと信ずべき正当な理由になると解することはできない。」と改める。

5  原判決九枚目裏三行目の「関係は」を「状態は」と改める。

6  原判決一〇枚目裏二行目の「後も」を「発出後も」と改め、同四行目の「弁論」の前に「乙第二六、第二七号証、」を加え、同一〇行目の「を本件建物」から「させて」までを「が既に寮生として入居している本件建物を買い受けて」と改める。

7  原判決一一枚目表末行の「本件」から同裏四行目までを「昭和四九年日本との国交回復以降今日まで六次にわたる外交折衝を通じて、日本政府に対して、本件建物が中華人民共和国政府の所有に帰すべき国有財産である旨の主張を行つてきたうえ、昭和五七年七月には、本件建物の改修工事に際して工事費用一〇〇〇万円を出捐した。」と、同五行目の「一般に」を「国際法上」と、同一〇行目から一一行目の「されている」を「するのが相当である」とそれぞれ改める。

8  原判決一二枚目表三行目の「新政府」の前に「当然には」を加え、同四行目の「ない。しかしながら」を「るわけではない。すなわち」と改め、同末行の「財産」の次に「は新政府には承継されないと言うべきであり」を加え、同裏一行目の「新政府が支配も権利主張もしていない」を「右に述べたような新政府に承継されるべき性質を有しない」と改め、同七行目の「中華」の前に「前記三1(七)認定のとおり、」を、同行の「ほか」の次に「の中国の領土の一部」をそれぞれ加え、同八行目の「ところ」から同一三枚目裏一行目までを以下の説示のとおり改める。

「と解するのが相当である。したがつて、右承認の切り替えによつて、本件建物が中華人民共和国に承継されるか否かは、被控訴人による本件建物所有権取得の経緯、理由、本件建物の性格、使用目的、利用状況など具体的事情に照らして判断するほかはない。

前記一1、二2、3掲記の各証拠及び認定事実によれば、本件建物は原判決別紙物件目録記載のとおり、鉄筋コンクリート造陸屋根五階建地下一階附共同住宅であり、昭和二〇年に国がこれを借り受けてから、専ら中国人留学生のための寮として用いられていたこと、戦後国の賃貸借が終了し、国から管理を委ねられていた京都大学も本件建物の管理から手を引き、賃料支払が途絶えたため、本件建物の所有者である合資会社洛東アパートメントは賃貸借契約継続につき難色を示していたため、当時入居していた寮生らが駐日代表団に再三善処方を求めたこと、駐日代表団は、本件建物を買い取ることによつて、寮生らの不安を解消し、右問題を解決することとしたこと、前認定のとおり、本件建物については二度にわたり売買契約が締結されたが、いずれも昭和二四年一〇月一日の中華人民共和国政府成立後であつたこと、右購入後、被控訴人において管理を開始することはなく、また、中華人民共和国政府成立後の被控訴人の支配地域からの留学生を組織的に本件建物に入寮させることもせず、右購入前と同様、依然として本件建物入居者によつて結成された幹事会が管理を継続したまま、中華人民共和国政府支持者と中華民国支持者がこもごも入居する状態が当分の間継続したこと、以上の事実が認められる。

右事実によれば、本件建物は外交財産もしくは国家権力行使のための財産と認めることはできず、新政府成立後に、単に本件建物に入居する寮生らの窮状を救済するため、被控訴人によつて購入した財産にすぎないと認められ、日本政府による承認の切り替えによつて新政府に承継されるべき財産と認めることはできず、被控訴人は、右承認の切り替えにもかかわらず、本件建物に対する所有権を失わず、日本国内においてその権利を行使することができると解すべきである。」

9  原判決一三枚目裏五行目の「被告ら」から同一四枚目表四行目までを「控訴人らの抗弁3について判断するに、被控訴人が、「光華寮」による本件建物の自主的な管理運営の現状を前提として本件建物を買い受け、あるいは右買受け後右管理運営の現状を承認した事実を認めるに足る証拠はなく、また、控訴人らが戦時中に派遣された旧留学生である事実をもつて控訴人らの占有の正当な権原となると解することはできず、他に右権原を認めるに足る証拠もない。そうすると、控訴人らの抗弁1及び2が認められないこと、他に「光華寮」が被控訴人に対抗できる権原を有していた事実の主張立証がないことを考慮すると、控訴人らの本件建物の入居占有が、控訴人ら主張のとおり、「光華寮」の承諾の下にされているとしても、右承諾は控訴人らの本件建物占有を適法にするものではなく、控訴人らの抗弁3は採用できない。」と改める。

10  控訴人らの当審主張について

(一)  当審主張(一)について

前記認定判断によれば、被控訴人の本訴請求は建物所有権に基づく妨害排除請求であり、その実態は一般の民事訴訟事件と何ら異なるところはないと言うべきであるから、控訴人らの本主張は採用できない。

(二)  当審主張(二)について

前記認定のとおり、中華人民共和国政府は日本政府に対する外交交渉において、昭和四九年以来今日まで、本件建物につきその所有権を主張し、名義変更を要求してきた事実が認められるが、前記認定判断のとおり、本件建物は、我が国の承認の切り替えによつて、中華人民共和国政府に承継されるべきものではないのであり、右権利主張によつて、右承継されない財産が承継されるべき財産に転化すべき法的根拠は存在せず、控訴人らが本主張において掲げる乙号各証は右判断を覆すに足るものと認めることはできず、本主張は採用できない。

(三)  当審主張(三)について

本主張の事実についてもこれを認めるに足る証拠は存しない。控訴人らが本主張の事実につき証拠として援用する、〈証拠〉は、いずれも私的団体と推認される華僑民主促進会もしくは中國留日同学総会の機関誌であると認められ、掠奪物資の発見、売却の経緯に関する記事は極めて漠然とした報道の域を出ず、他に売却金の性質、駐日代表団に右売却金が帰属した事実及びその理由等を認めるに足る証拠は存せず、まして駐日代表団もしくは被控訴人在日大使館が、本件建物購入当時、右保管金以外に購入資金を持たなかつた事実あるいは右保管金が現実に本件建物の購入資金として使用された事実については、〈証拠〉の記載は、一応右各事実に沿うことが認められるものの、客観的な裏付けを欠き、直ちに措信することはできず、他に右事実を認めるに足る証拠は存在しない。従つて、右事実を基礎とする控訴人らの本主張についてはこれを採用することができない。

(四)  当審主張(四)について

本件建物を被控訴人が購入した目的は前記認定のとおりであつて、本件建物が被控訴人によつて中国人学生寮としての用途に供する行政目的を達成するために買収された事実を認めるに足る証拠は存しない。従つて、右事実を基礎とする控訴人らの本主張についてはこれを採用することができない。

二結論

そうすると、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官上田次郎 裁判官道下徹 裁判官三谷博司)

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